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BLふうみ。 --------------------------------------- 質問だ。 お前らの中に 呼吸ができなくても平気なヤツ なんているか? いたら挙手。 いるいる、ひーふーみー… ってそんなワケあるがっしゃ――――――ん!!!!(ちゃぶ台) 悪かった。わかりきったことを聞いてすまない。 人間のさいぼうは酸素のきょうきゅうと二酸化炭素のはいしゅつなしに活動することはできない… わかりきっている。 ところでオレは今、すっご――――く苦しい。 呼吸ができないからだ。 うん、まあそれは比喩にすぎない。ホントに呼吸できなきゃこうして喋れないし。 てか死ぬし。 でも、「呼吸のようにアタリマエで必要なこと」 って誰にでもあるだろ? 恋をすることだったり、漫画を描くことだったり(ん?だれのことだ?)人によって違うけど、 オレの場合は 歌だ。 -BLUE BIRD- -1- 外から、体の中に入ってくる空気は、青い。冷たい… 喉を通り、肺まで達して体内に酸素をきょうきゅうする。 中から出ていく空気。白い。 水分を含んでいて、空中でそれが凝固するから。なんて、小学れべるの理科。 オレは、大事な大事な喉を冷やさないようにしっかりとマフラーを巻いて顔をうずめ、微妙な隙間から白い息を吐き出して、バス亭に立っていた。 背中にはギター。(長年の相棒) そして、「喉」は、オレ自身。 取り得が歌しかないしゅじんこう…というわけではない。たとえば、顔はかなりいい方、っていうか、いわゆるジャニ系。 だから、Jではないけど別の芸能事務所で、踊れないアイドル歌手やってます。それがオレの職業。 オレの経歴を話すね。 音楽の専門学校を出て、 気の合う仲間とバンドを組んで、 インディーズで結構売れて、 でもなかなかメジャーデビューできなくて またひとり と メンバーが減って ついにオレ一人になって 実質解散して でもオレは 歌いたくて・ 歌いたくて・ うん。 歌いたかった。 歌えればなんでも良かったから 知人に勧められるままアイドル系の事務所のオーディションを受けた。 自分で言うのもなんだけど オレは歌唱力で同世代の誰にも負ける気はしないぜ? 小さい頃からずっと上手い上手いって誉められてきて 自分より歌が上手いやつがいると 悔しくて悔しくて悔しくて やっきになって練習したっけ… オーディションは当然受かった。 ↓ シングル2枚ほど出して ↓ あんまり売れなくて ↓ 今に至る。 「上手い」だけじゃ売れない なんてみんな知ってるよな。 オレは知らなかったけど。 小・中・高と合唱をやってて インディーズ時代はハード?ロックやってて 今はキラキラしたポップス(ラブソング!) 歌えればなんでもいい…なんて思ってたけど、 オレ、ホントは何が歌いたいのかなあ。 尊敬するミュージシャンとかもいないんだよね。 これまではずっと「オレ最高!」だったけど 最近自信が…なくなってきた……というか。(これ口に出すのキッチィーッ) ありていに言えば、スランプ気味。 どんな歌でも歌えてた。 でも自分の歌なんて、なかった。 そう思うたびに空しくて苦しくなる。 オレに歌手としての価値は…あるのか? (歌、やめようかなあ。) ときどき、 ↑ こんな 思考が 頭を よぎって くそっ 人生を否定 胸が… 呼吸が、 苦しくなるんだ 泣きたくなるんだ!! 歌無しじゃ生きていけない。 歌ってても… 歌わなくても苦しい。 だれかたすけてくれ!!!! バスが来た。 乗りたくないバスが来た。 でも、後ろにはいっぱい人が並んでいるし…仕方ない。 (そんな感じで自分を動かす) ごつごつしたギターケースがおばあちゃんの頭を直撃しないように気をつけながら乗り込む。 事務所行くにはこのバス。(迎えはなし) 社長が今日、大事な話があるって。 セカンドシングル、売れてないからなあ。 びっくりするほど売れてないからなあ。 こーしてフツーにバス乗ってても、当然のように誰も気づかないからなあ!!!!(涙) オレ、芸能人なのに!! 大事な話… …クビ、かな。 しょーがない… ウチの事務所、ビンボーだし、 レッスン代ばかり食うタレント何人も雇ってらんないよな。 しょーがない。 うん、十分、お世話になった。 またバイトでも探すか… い・や・だっ!!!!!!!!!! 歌えなくなるなんてイヤだ。 ちがう、 誰かに…歌を聞いてもらえなくなるなんて。イヤだ。 誰でもいい、誰か… たとえ、 安っぽい どっかで聞ーたよーな うすっぺらっぺらなラブソングだろーと 聞いてくれっ オレの歌を!! オレはっ、歌手だっ!! お願いだ… 奪わないでくれ… くるし・い オレは、ぎゅっと左胸を押さえて何かに耐えていた。 何に?「何もない」に。 オレの心臓は空っぽで ずっとずっと真空で 歌がないと 血液のなかをぐるぐる歌が流れてないと いきができなくてしんでしまうんだ。 ふと、 「苦しい」のが止んだ。 なんだろう? どこから ともなく メロディが聞こえる。 心地いい。 オレの空虚な心臓を満たしてくれる。 そうか、わかったぞ… これは… これは…「歌」… だ! オレ、 うたなんて はじめてきいた… ふふふ〜んふふ〜 ふんふふふう〜ん ふんへへへふんへ〜ふ〜ん ふ〜ん〜ふ〜はあ〜ん〜 (オレはほとんど寝ながらその音楽を聞いていた。) 「こら、ミチルっ!バスの中で鼻歌歌わないの。行儀悪いでしょ?」 「あっ、ごめん、つい。」 (だから、) (その「歌」が途中で止んだのも、) (その「歌手」が途中で降りていったのも、) (そのバス停がオレの降りるべきバス停だったのも、) (なんにも、気づかなかったんだ……) -2- ちこくだ ちこくだちこく バースーでー寝過ごした〜っ! (作詞作曲:オレ) 社長室の扉を叩く。 「ルカです。社長、お呼びですか〜っ」 返事がない。 「あら、ルっくん。社長ならいないわよ。用事?」 と、声をかけてくれたのは専務の小林さんだ。その困った美人顔をみると、彼女もなにか社長に用事があるらしい。(美人カンケーない) 「あ、いや、社長から用事があるって呼ばれてたんスけど、いないなら、別に…」 あまり忙しい彼女の事をわずらわせたくない。 ちなみに、社員&タレントの数が両手足の指におさまるこの事務所では全員が顔見知りである。 「社長から?…あー、あの話…」 「ドッキーン」 なんの、はなしだっ 「だったら、スタジオ(※近所)にいるかもね。ちょうど、新しい子が来てたみたいだし。」 オレはめまいがした。 あたらしいこ。 それって、やっぱり、そ〜ゆ〜こと…かっ…? 「ルっくんも行ってきなさい?」 「え?オレっ…」 新しい歌手。 オレより歌が上手いやつか?(そんなヤツ、いるもんか!) オレより顔がいいやつか?(そんなヤツはけっこういる。) オレよりトークが上手いやつか…(そんなヤツだらけだ!!) とにかく… 才能の違いをこの目で確かめて さっさとあきらめなさいということなのか。 キツい。キツいぜ小林さん。 でもオレだって、どんなやつか自分の目で確かめたい。 それと、自分の耳で どんな歌を歌うのか 聞かなきゃ。 くるりと駆け出す。 「じゃあ行ってきます!」 小林さんは軽く手を振ってくれた。 わが音楽事務所の社長は、業界じゃ変わり者で有名らしい。 しかしまあ、見ただけでも変わっている。派手なTシャツとズタボロのハーフパンツがデフォで、ごん太い黒縁ダテメガネをかけ、腕にはデジタルショック、ハゲかけていたアタマは思い切ってツルッツルにし、頭頂部に日替わりで好きな文字をマジックで書いている社長なんてその人ぐらいだ。おまけにオネエ言葉。 でも、常識はある人なのだ。(多分) スタジオに駆け込むと、オレは社長の頭の「夢」という文字に向かって謝った。 「遅れて申し訳ありませんっ!」 社長は振り向くと、 「あら、ルカ!ちょうど良かったわあ」 困ったような顔で。 「ちょっと歌ってくれない?この曲」 「え、えーと、曲…?」 「はい楽譜」 「え?ちょ…いきなりっスよー!」 だがオレは、ハッとした。 いま、この部屋の向こうでは、新人君がこの歌を歌っているのではなかろうか。 それは、つまり… 「デモ聞く?」 「いや、オレは…今、歌っているのを聞きたいです。誰か知らないけど」 「……!ルカ、あなた…」 この部屋の向こうにいるのが誰だろうと、オレの方が上手い!って絶対、証明してやる!! 「何も言わなくてもわかってるってことね。いい子ね、ルカ。じゃあはい、聞いてごらんなさい!」 社長はオレに、機械に接続されたヘッドホンを渡した。隣の部屋とつながっているのだろう。今は試しに音を録っているところか。オレは何も言わずにそれを装着した。 オレは… 『はぇ の〜… ころう が〜…ひこぇるぅ〜… フィーリ マイラーウ〜……』 あ ぜ ん 。 オレは思わず叫んでいた! 「誰だコレ!!!!!!! ヘッタクソッ!!!!!」 ヘッドホンを自分の頭からもぎ去り、吐き捨てるように叫んだ!! 誰が傷つこうが、 後悔はしていない!!! 声の主は、声変わりして間もない少年、のようだったが、 「ナニ言ってるかわかんねぇし!声ちっちゃぇし!!つーか、音痴!音痴にもほどがあるっ!!」 オレは当然の感想を述べた。社長は、深い深〜い溜息をついた。 「違うのよー。ホントはこの子、音痴じゃないのよー。でもルカの言い分は当然なのよね。どーしましょ」 「あのー、誰…なんスか?ウチの事務所の…」 「そ。新しいタレントよ。歌手よ。」 「はああ?歌手って言いましたああああ??????」 クソ…文面じゃ、この音痴っぷりを表現できそうにない!でも歌手はムリっ!最近音痴の歌手が増えてるとはいえこれは無理っ!例えるならば、一番音痴だった頃の中居君くらい音程が悪く、クラス合唱で一番目立たない女子くらい声が小さく、リンレン姉弟ver1.くらい滑舌が悪い。ムリムリ 「聞いてちょうだい。アタシがこの子に出会ったいきさつ。」 「どうでもいいです」 「あれは寒い2008年11月のことだったわ。 アタシは近所の公園でボジョレー・ヌーボー持って紅葉狩りしてたの。そこの紅葉、とっても綺麗なのよ。まだ明るい夕方だったから、親子連れにとっても怪しい目で見られたけどね。アタシね、アンタの2枚目が売れなくて落ち込んでたのよねー…次はどんな曲歌わせればいいのか、いろいろ口ずさみながら考えてたわ。そしたらね、聞こえてきたのよぉ!『もみじ』が!あーきのゆーうーひーにーてーるぅやーまーもーみぃじーってね!とっても綺麗だったわ。温かくて、物悲しくて、アタシ、泣いちゃったわ。それが、この子の歌ってた鼻歌だったの。その歌を初めて聞いたみたいに感動した。アタシ、あんまりその子が気に入ったから、一緒に呑んじゃったわ。それで、聞いたの。『あなた、歌は好き?』その子は答えたわ。『大好きです』って。それでアタシ、契約したの。以上」 「……」 あまりにもツッコミどころの多い話だったが、どうせ誰も読んでいないのだからツッコんでも無意味だ。どうせ、酔っ払いの所業だ。許そう。 「それで、泣いちゃうほど感動的な歌を歌う歌手が?彼ですか?」 オレは嫌味たっぷりに言った。クビになるに違いないと胃が腐るほど心配した分を含めての嫌味だ。この分じゃ、その心配はなさそうである。 「でもねーっ、声は、キレイでしょう!?」 「声ですか?」 オレはいやいや、再びヘッドホンを装着した。 サンプルとはいえ、下手すぎるので何度も練習しているらしい。 息苦しそうな歌声がまた聞こえてきた。 ふむ。確かに、少年ぽい爽やかさがあって、好感度の高い声質だ。 「でも、音がこれじゃあ…」 「ああイヤだイヤだ!歌唱力至上主義の歌手なんて!!!」 クソ…気にしているトコロを… 「それに、なんだか辛そうに歌ってますよ。本当に歌が好きなんですか?」 「ええ。それは確かよ。あのね、どうやらこの子は、自分の気持ちとか、環境によって歌唱力が変化するみたい。つまり、キモチが不安だと本来の力が発揮されないの」 「初めての場所で、知らない曲を歌わなくちゃいけなくて不安…ってことですか?」 「多分ね。あと、自分に注目が集まるのも苦手みたい。」 おいおい。そんなヤツに歌手が務まるか!!! 「合唱でも歌わせりゃいいんスよ!」 「ダメよ!せっかくの金の卵!」 クソ… やっぱりか やっぱりオレは。 オレの歌は、 いらないのか… 社長がオレの顔面に楽譜をはたきつけた。 「ルカ!歌って!」 「へっ?」 「だいたいどんな曲かわかったでしょ?中!入って!」 「ちょっ、今のでわかるわけっ…」 社長はその部屋のドアをどかーんと開け、中にオレを押し込んだ。 狭い室内に見知った顔が何人もいた。 シンセの藤原さん。ミキサーの北山さん。機材の小呉さん。その他。 それと、 小さな小鳥…… 小鳥はオレを見た。 オレも小鳥を見た。 タマゴから初めて出てきたヒナのように。 (あれ?どっちが親鳥?) 小鳥は不安そうに目をしたたかせていた。 「は――――いっ、ルカくんですよーんっ!」(※社長) 「よー久しぶりぃールカぁ」 「元気してた?ルカくん」 「は、はい。お久しぶりです…」 小鳥は…いや、少年は、超絶音痴な金の卵はオレに軽く会釈した。 (中学生くらいか?) 「ルカとこの子、声合わせたいの。すぐできる?」 「できますけど…え?ルカくんは?歌えるの?」 「え、オレは…」 さっきチラっと楽譜を見ただけだ。常識的に考えて… 「う、うた、うたえます。」 「やっぱりね!さすがルカ!!」 くそ!歌ってやるよ、社長が考えた陳腐なメロディくらい、オタマジャクシ見ただけでじゅ―――ぶん歌えるっつーの!!!! 社長はドアから顔を突き出しながら言った。 「ルカ!アタシはアンタを信じてるわ!アンタ、天才だもん。なんだってできるわ!!愛してる、ルカ!」 オッサンの愛の告白なんてキモいだけだッ なんて思ったのに、どうしてこんなに、涙が出るほど嬉しいんだろう。 オレの歌を聞いてくれる。そう思っただけで… そうだよ。 オレは天才だ。 そんなの、オレが一番よく知ってる。 なんだって歌える。 こんな、救いようのない音痴とだって歌えるさ。 インディーズ時代、学生バンドみたいなヘタクソな楽器に合わせてボーカルのオレが無理やり合わせてマトモな音楽にしてやってた苦労を思い出した。(普通、逆だろ!?) あの感覚でやれば大丈夫。 たかが斉唱だし… 最初の音は… Aマイナー。 次へ |
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